糖尿病網膜症
目はカメラに例えられます。レンズは水晶体、フィルムは網膜に相当します。
糖尿病の場合、レンズの濁りは白内障、フィルムの痛みは糖尿病網膜症にあたります。
糖尿病の患者さんが視力障害をきたす主な原因は、この二つの病気が最も多いのです。
糖尿病網膜症が出てくるには、糖尿病になってから、数年から10年くらいかかることが分かっています。
糖尿病にかかってすぐに目にくるわけではありませんし、血糖コントロールをしっかりとすれば糖尿病網膜症が出てくるのを予防することもできます。
重症な糖尿病網膜症になって失明したり、失明の危機に迫っている患者さんは全糖尿病患者の内の20%くらいと推定されます。
こうした事態を避けるために、糖尿病の患者さんは、定期的に眼底検査を受けることが必要です。
糖尿病網膜症は大きく分けて三段階で進行
1. 単純糖尿病網膜症
針の先で突いたような小さな点状出血、それよりやや大きめの斑状出血、毛細血管が膨らんでできる毛細血管瘤、脂肪やたんぱく質が沈着してできたシミ(硬性白斑)、血管が詰まってできたシミ(軟性白斑)などが眼底所見として見えます。
視力には全く影響がなく、血糖コントロールを良くしていると自然に消えていきます。
2. 増殖前網膜症
軟性白斑というシミが多数出てきたり、血管が詰まって酸素欠乏になった部分があちこちに出てくると、新生血管が出てくる前段階になります。
静脈が異常に腫れ上がったり、毛細血管の形が不規則になります。正確な状況をつかむために蛍光眼底造影(血管造影)をすることがあります。
この段階でも視力に影響がありませんが、危険な状態に一歩踏み込んでいます。この時期にレーザー光凝固をすると最も良い効果が得られます。
3. 増殖網膜症
新生血管(正常ではないはずの新しい血管が硝子体にのびてくる)、新生血管が破れて起こる硝子体出血、増殖膜、網膜剥離という重症な段階です。
新生血管が出てもまだ自覚症状はありません。
この段階でレーザー光凝固をすればまだ間に合うことも多いのですが、硝子体出血や網膜剥離を起こすと、なかなか自然に治ることは少なくなります。
この段階になって目の中に煙のすすがたくさん出たり、赤いカーテンがかかるなどの自覚症状が出てきますが、相当に進んでしまって手遅れに近いのです。
これらの三段階がどのくらいのスピードで進むかは、人によって違います。
血糖コントロールがきちんと行われている人は進むのが遅く、また最終末期の網膜剥離にまで至らずに、途中で進行が止まり安定することも多くあります。
概して比較的若い人(40~50歳以下)は進行が速いので注意を要します。